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林業の聖地・日田へ 森の先生として生きる【・・大分、変わる。おおいた移住 Dive to Change・・⑩】
逆算思考で人生をデザイン
未来起点で将来を考える
北部九州のほぼ中央、大分県の西部に位置する日田市。市内には7つの木材市場や数多くの製材・木工所が点在し、バイオマス発電などの関連産業も発展するなど、古くから日本有数の“木のまち”として栄えてきました。そんな資源豊かなまちで自らを“森の先生”と名乗り、5月20日の“森林の日”に合わせて合同会社『Forestcity(フォレストシティ)』を設立したのが都賢太郎さん。林業従事者には事業の現状と未来を多角的に捉え、経営の持続性を確保するためのコンサルティングサービスや行政文書の作成支援を。さらに現在は前職の経験や森林インストラクター、森林総合監理士の資格を生かし、その分野の公務員を目指す若者に向けたオンライン講座の開講や各種学校への出張事業、森林教室の開催など、教育方面の活動準備も進めていると話します。
しかし、なぜ都さんは自然にここまでの関心を?
「僕の出身は大分市の鶴崎地域。中心市街地からはやや離れるものの、俗にいう都市部で育ったため幼い頃から林業が身近だったわけではありません。でも家の窓からは山と川を望め、僕はその景色が大好きで。それが中学2年生になった頃、そこに工場が建ってしまいました。今なら地域に雇用が生まれるなど良い作用もあると理解ができますが、当時の僕は当たり前にあった風景が突然変わってしまったことにとてもショックを受けました。そこから“自然を守りたい”という意識が生まれたと思います。さらに社会でも“持続可能”という言葉が唱えられはじめた時期で、それなら仕事にしたいと考えるようになりました」。
目標達成に至るまでのプロセスを常に逆算思考で考えているという都さんは、14歳ながら樹木の診断や治療、保護、育成、管理を行う専門家・樹木医にまずは興味を持ち、大学進学を決心。その進路に伴い受験先の高校を決め、進学した大分鶴崎高校では学業を優先するため、部活動を断念するほどだったそう。「昔から変わり者と言われてきましたが、子どもらしい夢を持っていた時期もあったんですよ。でもサッカー選手は体力面に厳しさを感じて、臨床心理士は患者さんに寄り添いすぎて自分が病んじゃうかなって(笑)」。
“森林を守る”という目標はいつからか、“利用しながら守る”ことへ。自らの進む道を深掘りするうちに、環境を保全しながら森林資源を持続的に利用していく必要性を感じたと話します。
「林業従事者になることも考えましたが、それでは自分の手の届く範囲の森林しか守ることができません。だから行政という立場から仕組みづくりに関わろうと思いました。そして高校2年生のときにたどりついたのが林野庁という夢です」。

広島大学では森林生態学を学び、2016年に念願の林野庁へ。忙しくも充実した日々を送り、約9年の間に本庁をはじめとするさまざまな森林管理署に在籍しました。
「いつも天職だな、と思いながら仕事をしていました」。
退官を決めた理由は、地域にもっと溶け込みたいという思いから。大きな組織ゆえに2〜3年、時には1年のペースで転勤のある仕事は、その土地の課題を見つけて解決策を講じるも、プロジェクトの途中で現場を離れてしまうことも珍しくなかったとか。そうした理由から独立を模索するようになり、地元・大分市も候補地ではあったものの、2024年に行われた「ひた森勉強会」への参加が都さんの考えを大きく変えます。
移住は目的ではなく手段
新天地は自らの経験が活きる場所
日田市内の林業関係者でつくられる、「ひた森の担い手づくり協議会」が開いた勉強会にプライベートで足を運んだ都さん。2023年からスタートした会では林業の基本から造林・育林の技術指導を受けることができ、参加のきっかけは仕事を通じて知り合った木材市場の方からの紹介だったそう。そのときの都さんは宮崎県日向市の宮崎北部森林管理署に在職中で、伐採跡地へ苗木を植え付ける植栽作業を担当していたことから、学びを生かせると考えたと言います。
長く大分を離れていた都さんにとって日田市は、山とともに生きるフォレストオーナーによって支えられてきたまち。けれど現地の人々の声に耳を傾けると、長期的な木材価格の低迷や働き手の減少と高齢化、森林所有者の意欲減退、造林未済地の増加など、地域が多くの課題に直面していることがわかったのです。

さらに研修を受ける中で従事者の熱意を知り、この場所なら自らの経験や知識を生かすことができると実感。木材加工・流通の拠点としてウッドコンビナートが整備され、多くの製材所などが集積する地域性にも魅力を感じたと語ります。
「僕からすると日田は林業のショールーム。どの関連施設に行くにも、景色を案内するにも大体30分圏内で行けてしまうので、森の先生をするには最適な場所だと思いました。実は蜘蛛が苦手なので体験活動中に巣が頭に引っかかると、びっくりしちゃいますけど(笑)。住む場所を変えることについては、林野庁時代に多く引っ越しを経験してきたので何とも思わなかったですね。新しいまちに行き、新しいことをする。ある意味そこは今までと変わらず、ただ延長線上に起きた出来事という感覚です」。
ただし今回の移住は起業も伴うことから、家の立地は考慮したとのこと。先々の仕事の広がりを視野に、福岡空港へのアクセスが便利な中心部の物件を優先。事業については創業計画書をつくり、市内のビジネスサポートセンターを訪ねることもしたそう。
「こんなにも石橋をたたいて渡るタイプの人間が、なぜ独立したんだって話ですよね(笑)。林野庁を就職するか悩んだときは、横浜の赤レンガ倉庫で1人背中を丸めて考え込んだりしたかな。日田に来たばかりの頃も眠ることができず、一晩中これからどうなるんだろう?と不安になっていました。また、林業にまつわる組織が多く存在するからこその難しさもあり、それぞれに伝統や考え方があるので。皆さん熱心な方ばかりなので良い関係を築けたら良いと思いますね」。
さらに日田市の印象は、市役所などの施設が1カ所にまとまっているので暮らしやすいそう。「飲食店やスーパー、ドラッグストアなどいろいろなお店があるので、今のところ困ったことはありません。あとは行事が盛んなイメージがあって、川開き観光祭は面白かったですよ。水上イベントも多く“水郷ひた”と言われる理由がわかる祭りでした」。
今後の目標は事業を安定させ、まずは生活の基盤をしっかりと築くこと。その上で森林と教育を掛け合わせた事業に積極的に取り組み、人と自然の距離を近づけていていきたいと都さんはビジョンを語ります。
「森で遊ぼうと言われて多くの人が想像するのは、山登りやキャンプ。でもそれだけでは選択肢が少ないので、森の先生として違う関わり方を提案できたらと思っています。あとは林業に関わりたいと考える人の受け皿をつくること。安定したお給料や安心して仕事ができる環境の整備、アルバイトなど多様な働き方の実現も模索したいですね。そういった仕組みをつくり、全国に広げていくことができれば中学時代からの目標である持続可能な森林管理を実現できると思います」。
取材中、周囲の自然に優しい眼差しを向けていた都さん。挑戦は始まったばかりです。

林野庁時代の都さん。屋久島の縄文杉を背景に

Forestcity創業当時の写真
<移住者メモ>
| お名前 | 都 賢太郎(みやこ けんたろう)さん |
| 出身地 | 大分県大分市 |
| 前住所 | 宮崎県門川町 |
| 現住所 | 大分県日田市 |
| 年齢 | 32歳 |
| 家族構成 | 1人暮らし |
| @forestcity_070520 |
電話:050-1725-7520
Instagram:https://www.instagram.com/forestcity_070520
都さんに聞いた、日田市のおすすめスポット
①亀山公園
三隈川沿いにある公園は、個人的に“水郷ひた”の文化が感じられるところです。地域に古くから伝わる「日田川開き観光祭」の開催場所とも近く、公園と川との間にかかる沈み橋も風情があって良いですね。
②咸宜園(かんぎえん)

江戸時代後期に生まれた儒学者・廣瀬淡窓が豊後・日田に開いた日本最大規模の私塾。武士だけでなく、身分や男女問わず入門できたそうです。移住後にその存在を知り訪ねてみると、建物もとても素敵でした。
③ 天領日田洋酒博物館
博物館のオーナーが個人的に収集した洋酒関連のコレクションが圧巻。バーは2次会で良く利用するのですが、特色があるので日田に来た知人を案内するのには最適なスポットです。
大分県/日田市/移住/田舎移住/おおいた暮らし/日田
●日田市移住支援制度
https://www.city.hita.oita.jp/soshiki/norinshinkobu/shokoroseika/koyouroudou/ui_turn/9423.html
●日田においでよ。(日田市プロモーションサイト)
https://www.city.hita.oita.jp/teiju/index.html
●令和7年度 先輩移住者の「ひた暮らし」
https://www.city.hita.oita.jp/soshiki/norinshinkobu/shokoroseika/koyouroudou/ui_turn/sennpai/17797.html
大分県には、全国各地から様々な移住者の方が集まっています。
この連載記事では、それぞれの移住のきっかけや、今の暮らし、移住してよかったこと・こまったこと、今後のビジョン、住んでいる各市町村の支援情報など、移住者のリアルを取材していきます。
運営:大分県
制作:おおいたインフォメーションハウス株式会社
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〈大分県への移住に関するお問い合わせ先〉
大分県 おおいた創生推進課
電話:097-506-2038
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受付時間/8:30~17:15( 土・日曜、祝日を除く)
〈大分県 移住公式サイト〉
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