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中津の老舗テーラーで究極のドレスシャツを仕立てる。【落合商店の週末⑬】
10月に入り今年もあの暑かった毎日が徐々に遠のいていく。
気付けば今年も残すところあと2か月と少し。涼しくもなるわけだ。
いつまでもスーツスタイルのジャケットとネクタイを取り払ったクールビズを引きずってはいけない。
もともとスーツスタイルは上下共通生地のジャケット、スラックス、シャツ、ネクタイという一組の組み合わせがある。例えばホテルのスイートルームも「suits」の英語表記同様「siute」で一式揃ったという意味がある。どれかが欠けてしまうと不完全、もしくは未完成なものになってしまうのだ。
それぞれのライフスタイルにもよるが、夏に比べスーツを着る機会も増えるだろう。
そして年が明けると成人式も控えている。
これを機にせっかくの男性の魅力を最大限に引き出してくれるスーツスタイルについて、真面目に向き合ってみようと思う。
一番大きな面積を占めるスーツそのものに拘る人は多いが、小さい面積のシャツ、靴、ネクタイにまで意識が届いている人はあまり多くない。
特にシャツはそうで、拘りを持ったスーツとは対照的に量販店で売られているシャツを「なんとなく」着ているのはもったいない。
もともとシャツは下着であり、消耗品である。
スーツに比べてシャツ選びが疎かになってしまいがちだ。
しかし、良いシャツはスーツを引き立たせる。
なにをもって「良いシャツ」というのかは着用シーンや好みによってそれぞれではあるが、シャツに拘るということは良いシャツを追求するということに繋がる。
「消耗品だから。」「ほとんど見えないから。」と適当にシャツを選ぶのではなくて、納得する良いドレスシャツを持っていた方が良い。
成人式を迎える男性のみなさんも、スーツを仕立てるのと一緒にドレスシャツも1枚仕立ててみてはいかがだろうか。
スーツスタイルの中で狭い面積ではあるが縫製や生地、仕立てなど、他者との違いは明白である。そしてスーツに拘れば拘る程、適当に選んだシャツとそのスーツのアンバランスさは大きく映る。
そこで、久々に私もドレスシャツを仕立てることにした。
向かった先は1964年創業の中津市の老舗、『テーラーすが』。
10数年前、ここで数枚のドレスシャツを仕立てた。着用頻度によって寿命は異なるが、未だに最初に仕立てたホワイトシャツは現役である。
着用頻度の他、生地や縫製も良く、大事に扱うからこそ10数年もっているということも考えられるのだが。
これがそのホワイトシャツだ。
驚いたことに当時のシャツの採寸伝票がまだ残されていたのだ。
この様に10数年経っても、採寸伝票が残されている仕立て屋は信頼ができる。
よく「ワイシャツ」と言われるが、これは「ホワイトシャツ」が日本に入ってきて「ホワイトシャツ」が「ワイシャツ」となり広まった。
なのでここではホワイトシャツと表記している。
ビスポーク仕立てのシャツやスーツはサイズや形状だけでなく、生地、釦、その他細部に至るまで自分好みを詰め込むことができることが醍醐味だが、此見よがしな派手な細工は施さず、どんなスーツにも合わせやすいホワイトシャツが良い。
良いドレスシャツの定義のひとつは引き算の発想があると考える。
余計な装飾でごまかしが効かないシンプルな1枚。
トラディショナル、クラシックなスーツにはもちろん違和感なく馴染み、生地自体にインパクトがあるスーツやネクタイにもそれらを引き立たるVゾーンを表現することができる。
シャツを仕立てる際には、ラフなスタイルではなくそのシャツに合わせたいスーツを着て行くことをお勧めする。
ジャケットの袖から覗かせるシャツの袖の長さや、ジャケットのラペル(襟)幅に合わせてシャツの襟も選びやすくなる。
まずは生地選び。様々な生地や織、柄、色など見本を見ながら選ぶ一番楽しい時間である。
生地選びは重要で着用シーンによってはそぐわない生地もあったりするので、そのあたりも考慮する必要があるのだ。(大雑把に言うとドレスかカジュアルか。)
今回は究極のドレスシャツを仕立てるということで、白の無地一択。
白といっても、「ドビー織」という織り方で柄を表現している生地もあるが、今回は選択肢にない。
個人の好みの問題でドビー織が悪いわけではないが、今回仕立てるドレスシャツは余計な柄は不要である。
良い生地はアイロンのかかり具合も全く違うので、拘って選びたい。
綿100%が良いと思っていると、「綿100であれば日々のお手入れはクリーニングをお勧め、自宅での洗濯、アイロンが多いのであれば綿とポリエステルの混紡生地が良いです。」
とテーラーすがの社長、須賀さん。
少し悩んで引き算の代わりに素材に妥協はせず綿100%に決めた。個人的に化学繊維より天然素材の方が好きだ。
因みに綿100%でも生地のランクがある。
いくら究極のドレスシャツとして生地に妥協はしないと言えども、下着である消耗品。
あまりにも高級な生地を選ぶのは身の丈に合っていないので、中間層の生地に。(予算に余裕がある方は是非高級な生地をお勧めする。肌ざわりが違うのだ。)
肩幅や腕の長さなどのサイズを採寸。
細かな微調整が可能。
例えば首回り。
「ネクタイは苦しいから。」と言って緩くネクタイを締めたり、ネクタイを締めない人もいる。
これだと「suite」の本来の意味を持つ一式揃いのスーツスタイルを壊すことになり、台無しになってしまう。
そもそもネクタイを締めることで苦しくなるのではなく、シャツの首のサイズが合っていないことが多いのだ。
ここで色々と話し合いながらベストな首回りサイズができ上り、ノンストレスで着用が可能になる。
(因みにビスポークとは「be spoke」と表記され、話しながら注文者の体系や好みに合わせて仕立てるという意味で、まさにその作業である。)
シャツの襟
襟の大きさ、開き具合の角度など好きな襟を選べることもビスポークならでは。
スーツでボタンダウンシャツを着ている人を多く見かけるが、本来ボタンダウンはカジュアルシャツなので選択肢から外す。
今回はタブカラーにした。
タブカラーにすることで、Vゾーンから襟が出ることを防げて、ネクタイのノット(結び目)を立体的に見せる効果もある。
袖口の長さや袖口のサイズを測る。
ここで、左右の袖口のサイズを微妙に変える。
何故かというと、左手に腕時計をした際に袖が腕時計に当たるのだ。
(1枚目の写真を見てみると、確かに時計が当たって左腕からシャツの袖が覗いていない)
前回仕立てたシャツの改善点を活かして理想のシャツへと近づける。
シャツの袖は、ジャケットの袖から1~2㎝程覗かせるのが良い。(真っ直ぐに手を下した状態で)
見た目としてもそうだが、ジャケットに皮脂汚れが付かないように、シャツの袖と襟で皮膚への接触を防ぐという本来の下着としての役割も果たしている。
若干左の袖口を大きく取ることで、腕時計の上にシャツの袖が覆いかぶさるようになり、綺麗にジャケットの袖口からシャツを覗かせることができるのだ。
デザイン云々よりも、この微妙な調整もビスポークだからできること。
その他、私はイカリ肩なので、それをカバーするような設計に。(勿論撫で肩の場合はそれに合う設計を)
以前の伝票を見ながらウエストを測ると、「当時より4㎝ウエストが大きくなっていますね(笑)」と。
「やはりそうですか…。」
「大きくしますか?」
「いえ、そのままでお願いします。」
体型に服を合わせては駄目なのだ。服に合わせなければならない。
太ったのであれば、生活習慣の乱れを見直して改善する。
シャツを仕立てるということは、このようなことを気づく利点もある。
そして何よりスーツは「楽さ」を追求する服ではないと考えている。
スーツに身を包んだ時の緊張感や相手を敬う気持ちが必要だ。
既製品のシャツに付いていることが多い胸ポケットは省く。
本来ポケットが付いたシャツはカジュアルシャツやワークシャツなど。
スーツに合わせるドレスシャツはポケットがない方が見た目もスマートでエレガントだ。
「あった方が便利じゃないか。」と思うかもしれない。
仕事でスーツに合わせる所謂ワイシャツであればそれでも良いかもしれない。
ただ、今回はドレスシャツを仕立てるという点でポケットは不要なのだ。
(あぁ…ポケット要らないからその分の工程と生地の分安くならないかなぁ…と心の中に留めて口に出すのを抑えた)
釦は白いシャツに違和感なく馴染み、且つ高級感を与える白蝶貝釦を。
だが、せっかく選んだ白蝶貝釦、前立て部分の比翼仕立てという釦が見えない仕立てに。
(これもオプションで別料金)
比翼仕立てとは、シャツの前立て部分の生地を二重にして釦が隠れるような作りだ。
ポケットがないことと同様、釦を見せずフロント部分がすっきりとしている方がよりエレガントになる。
ネクタイをしたらもともと見えないが、ボウタイ(蝶ネクタイ)を選んだ時に比翼の効果が効いてくると思う。
「見えなくなるなら、普通の釦で良いのでは?」
これも個人の感覚なので、正直それが正解だとも思う。
が、これは見えない部分の拘りである。見える部分ばかり気を遣うのではなく見えない部分を意識してこそ究極のドレスシャツと考える。
そしてシャツの寿命がきても、釦はまだ使えるという状態が多い。そんな時は白蝶貝釦を取り外して、別のシャツに付けて再利用することもできる。
白蝶貝釦は800円のオプションだ。その費用を削減して作ったとして、後になって後悔するのであれば、良い釦を選ぶのが正解だ。(実際14年前の仕立てたシャツは白蝶貝にすれば良かったと思った。)今回のシャツもまた10数年着用するつもりでいる。
ステッチの色や釦ホールの色、ネーム刺繍も可能。その部分に拘れば、それだけで仕立てたシャツだと解るが、敢えて何もせず、引き算に徹する。
これも個人の好みの問題。
ただ、引き算ばかりではなく、ここで足し算の要素を入れたのがダブルカフス。
長く取られた袖を折りたたんで、カフリンクスで留める仕様だ。(オプション料金)
これも好みではあるが、女性と比較して圧倒的に装飾アクセサリーが少ない男性のドレススタイル。数少ないアクセサリーを取り入れる機会として、積極的にカフリンクスを使いたい。
ステッチや釦ホール等、余計なことをしないシンプルなシャツだからこそ、カフリンクスが引き立つ。要はバランスで足し算ばかりでは主張が激しくなり、引き算ばかりでは何も主張がなくなってしまう。
こうして仕上がったシャツがこちら。
量販店で安くシャツが売られている時代に「シャツで10,000円超え?」と思う方もいるかもしれない。
ただ、最初に書いたとおり、以前仕立てたシャツは14年着用している。1年間で1,000円くらいだ。量販店で安く売られているシャツよりも、ビスポーク仕立ての方が良くはないだろうか?
当然扱いも丁寧になるからこそ長く着れているということもあるが、使い捨てが主流の世の中でシャツ1枚に拘る。
使い捨て前提、大量生産の洋服は多くの廃棄物や大気、水質汚染などの環境問題に加えて低賃金の労働力、人権問題に関わってくる。思い入れのある洋服を長く着続ける人が増えれば、このような問題も多少は解決に向かわないかと日々考えている。
話しが逸れたがスーツの中の一つ、シャツに手を抜かないことでいつものスーツスタイルをレベルアップできるはずだ。
そして、最初にも書いたとおり、年が明けて成人式を迎える皆さんにはスーツと一緒にシャツも拘って1枚良い物を仕立てることをお勧めしたい。
成人式の他、就職活動、友人の結婚式、社会人となった際の商談などで良いシャツが助けてくれる場面もあるかと思う。
ただ、成人式や結婚式等でシャツを見せたいからといって上着を脱ぐのは控えた方が良い。
スーツにおけるシャツは下着なので、下着姿でその場にいるということと同じである。
どうしても暑いからというような理由で上着を脱ぎたいのであれば、3ピースのベストを着用していれば良い。
最近はセミオーダーで手軽にスーツやシャツをオーダーできる店が増えた。
派手で遊び心のあるスーツやシャツを仕立てる際には新しいお店の方が派手な生地も多く揃っているが、普遍的でオーソドックスな物を仕立てる際には、テーラーすがのように長年続いている老舗をお勧めする。
最後に勘違いしてほしくないことは、既製品のシャツが駄目だと言っている訳ではない。
私も既製品のシャツや古着で見つけたドレスシャツを着用することも多々ある。
要はそれぞれに合った使い分けでシャツを選べれば良いと考えている。
扱い方が変われば、着用した際の動作、思考も変わってくるのだ。
住所:中津市島田本町47番地
電話番号:0979-22-1379
営業時間:9:00~18:00
定休日:第1・第3土・日曜
駐車場:2台
シャツオーダー:9350円~2万2000円
出張採寸:条件により対応可
HP:https://tailor-suga.com
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